提携サイトの注目記事
後藤啓介は海外ファンからどう見られているのか。当サイトで訳してきたコメントを並べ直すと、彼個人を論じた声はほとんど見当たらない。語られているのはいつもフライブルクで、後藤啓介の名前が単独で出てきた唯一のコメントは、ダジャレだった。
加入の日、主語は「日本」だった
先に正直に書いておく。今回の問いに正面から答えるなら「見られ方が定まるほど、まだ語られていない」になる。ただ、何が代わりに語られているのかは、けっこう面白い。
まずは2026年6月、フライブルク加入が報じられた日のコメントから。
彼に関する噂、全然耳にしなかったわ。まさにシャドードロップだねw でもヤバい!! 日本は新しいジョージアだわ
Ich habe keinen einzigen Gerücht von ihm im Gedächtnis, einfach shadowdrop 😀 Aber geil!! Japan ist das neue Georgien
シャドードロップは、ゲームが予告なしでいきなり配信されることを指す言葉だ。噂ゼロで決まった移籍への驚きを、この単語ひとつで言い切っている。うまい。
で、後半の「日本は新しいジョージア」。2000年前後のフライブルクには、コビアシュヴィリやイアシュヴィリといったジョージア人選手が何人も在籍していた。あの頃のジョージア枠を、今は日本が担っているという見立てだ。古いファンほど笑えるネタだと思う。ただ、この時点で主語は後藤啓介ではなく「日本」になっている。
ブライスガウのブラジル人たちの次は、シュヴァルツヴァルトのサムライたちが来るんだな
Nach dem Breisgau-Brasilianer kommen die Schwarzwald-Samurais
これもいい。「ブライスガウのブラジル人」は、90年代のフォルカー・フィンケ監督時代に、小気味いいパスサッカーをしたフライブルクに付いた愛称だ。その系譜に「黒い森のサムライ」を並べている。洒落てるんだけど、こっちも複数形なんだよな。
フライブルクはドイツ版ブルーロックの道を歩んでるな、彼らのリーグ制覇の準備はできてるぜ
freiburg auf dem weg zum deutschen blue lock, ich bin bereit für ihre ligaübernahme
191センチのストライカーが日本から来たからブルーロック、という連想はよく分かる。リーグ制覇まで一気に飛ぶのは、もちろん冗談だ。それでも、ここで語られているのはやっぱりクラブの未来である。
残りのコメントは、もっとあからさまだった。
マジでフライブルクがめちゃくちゃ熱い、本当に羨ましいわ。フライブルクは本来ヴェルダーがあるべき姿だよ。両クラブとも地道に堅実にやっていくっていう方針だけど、フライブルクの方がはるかに上手くやってるんだよな。
Junge Freiburg kocht einfach so hart, bin echt neidisch. Freiburg ist das, was Werder sein sollte. Beide Vereine haben den Anspruch, ruhig und stetig zu arbeiten, Freiburg kriegt es aber einfach so viel besser hin.
そうなんだよな、俺の頭の中では両クラブともそういう存在なんだ!昔はきっと良い思い出がいっぱいあったんだろう。ヴェルダーがまたあの頃に戻れることを願ってるよ。いい時代だったな。
Genau so leben beide Vereine in meinem Hirn! Vermutlich gute Erinnerungen von anno dazumal. Ich hoffe, Werder findet wieder dahin zurück. War ne gute Zeit.
後藤啓介の加入記事のはずが、気づけばヴェルダーファンが自分のクラブの昔を懐かしむスレッドになっている。そこへ「VfBファンとしてはかなり羨ましい」という声まで加わる。後藤啓介は、よそのクラブのファンに自分の家計簿を見直させる材料として扱われていた。
うわー、VfBファンとしては、これはかなり羨ましいな
Uuuh als VfB Fan bin ich da ziemlich neidisch
ヘディング弾の夜、話題は退場とギンター
10月、シャルケ戦。当サイトの記事タイトルは「後藤啓介のヘディング弾でフライブルクが首位浮上」だった。ところが、コメント欄の第一声はこれだ。
現状整理しよう。5節終わって、BVBが2位(まあいい)、バイエルンが3位(どうした?)、そしてフライブルクが首位……マジかよ!シーズン序盤とはいえ、誰がこんなの予想できた?
Halten wir fest: 5 Spieltage vorbei, BVB Platz 2 (ok), Bayern Platz 3 (was ist denn hier los?) und Freiburg auf Platz 1… klar doch!Ja, die Saison is noch jung und alles, aber wer rechnet denn mit sowas?
このファンによれば、5節終了時点で首位はフライブルク。「バイエルンが3位(どうした?)」のカッコ書きが一番笑えた。ドイツの人にとっては、フライブルク首位よりそっちの方が事件なんだろう。
そこから話は退場劇に流れていく。フライブルクは10人で勝ったらしい。
フライブルクの退場処分、感覚的にはシャルケのほうが大打撃受けてた気がするわ。
Der Freiburger Platzverweis hat Schalke gefühlt mehr geschadet.
うちじゃ何年も前からこれだよ。レッド出されたらファ○ク、相手が出されても?やっぱりファ○ク。それまでは良いペースだったのによ。
Ist bei uns seit Jahren so. Wir kriegen Rot sind gefickt, Gegner kriegt Rot? Ja auch gefickt. Waren vorher gut drinnen.
相手の退場を取り消してくれって審判に抗議してみたらどうだ。混乱して本当に取り消してくれるかもよ。
Einfach beim Schiri reklamieren, dass er den gegnerischen Platzverweis zurücknimmt. Vielleicht verwirrt ihn das ausreichend um es wirklich zu tun.
この流れ、好きだ。数的優位をもらっても負けるチームの自虐に、「相手の退場を取り消せと抗議しろ」という完全な冗談が返ってくる。もちろん本気の提案じゃない。こういう会話で、ゴールを決めた選手の名前はまず出てこないんだよな。
フライブルクの個人名が出たと思ったら、それはマティアス・ギンターだった。
昨季の試合観たけど、ギンターの位置に合わせて周りが規律正しく動いてたの本当に見事だった。スペースが全然空かないからギンターも戻る必要なかったし。
Ich hab letzte Saison ein Spiel von euch gesehen und fand es wirklich faszinierend, wie diszipliniert alle anderen Spieler sich an die aktuelle Position von Ginter angepasst haben. Da waren nie Lücken und Ginter musste nie zurückrennen.
このファンが褒めているのも、ギンター個人というより「周りが合わせて動く仕組み」の方だ。このクラブを見る人たちの目は、選手よりも構造に向いている気がする。
それに、数字を見れば無理もない。ESPNによると、後藤啓介の今季ブンデスリーガは7試合出場で、先発は1試合、途中出場が6試合。得点は1、アシストは0だ。途中から出てくるFWは、試合の物語の主役にはなりにくい。ドイツのファンから見た後藤啓介は、まだ「首位チームのベンチにいる、背の高い日本人」の段階なんだと思う。
唯一の単独登場は、ダジャレだった
10月末、ヴォルフスブルクとのカップ戦。記事タイトルには「後藤啓介の活躍で」とある。ここで、ようやく彼の名前が単独でコメントに出てきた。
フライブルクはベルリンへ向かう(Goto)気満々だな。
Freiburg will Goto Berlin.
これには笑った。ドイツ語なら本来は「Freiburg will nach Berlin」。DFBポカールの決勝はベルリンのオリンピアシュタディオンで行われるから、「ベルリンへ行きたい」はそのまま「優勝したい」という意味になる。その「nach」を英語の「go to」に置き換えて、さらに「Goto」と綴った。ドイツ語の文に英語を挟み、しかも日本人の名字にしてしまう三段構えだ。
評価でも何でもない、ただの言葉遊びである。それでも私は、これがいちばん後藤啓介らしい扱われ方だと思っている。名前で遊ばれるのは、名前を覚えられた証拠だからだ。名前を知らない選手で、ダジャレは作れない。
同じ試合のコメント欄では、こんなやり取りもあった。
フライブルクのゴール曲を聴きたいがために、3つのゴールに歓喜しちゃったよ。
Allein wegen der Freiburger Torhymne habe ich mich über die drei Tore gefreut.
それ皮肉なのか本気なのか? ;D
Ist das /s oder ernst gemeint? ;D
本気だよ、お前らのチームのゴール曲が大好きなんだ。
Ist ernst gemeint, ich liebe eure Torhymne.
「後藤啓介の活躍」と銘打った試合で、このファンが愛でているのはゴール曲の方だ。皮肉かと疑われて、「本気だよ」と即答している。ゴールそのものより、ゴールのあとに流れる音楽を喜んでいるわけで、ここでも主役はクラブなんだよな。
残りのコメントは、対戦相手のヴォルフスブルクがどこまで通用したかの話に終始していた。
ありきたりな言い方かもしれないが、カップ戦には特有の難しさがあるよな。失うものが少ない状況で良いプレーをするのと、2部の日常を戦うのは別次元の話だ。
Abgedroschen oder nicht, aber Pokal hat nun mal seine…Gut zu spielen, wenn man wenig zu verlieren hat ist was ganz anderes als Zweitligaalltag
このファンの言い方からすると、ヴォルフスブルクは2部のチームとして語られている。かつて優勝まで経験したクラブがそう扱われていることの方が、ドイツの人たちには話の種になるらしい。
まだ「サムライたち」の一人
結論を書く。手元のコメントからは、後藤啓介のプレーに対する海外ファンの評価は引き出せなかった。このテーマには半分しか答えられていない。それは認めておく。
ただ、見られ方の形ははっきりしている。加入の日は「日本」「サムライたち」「ブルーロック」という集合名詞の中にいた。ゴールを決めた夜は、順位表と退場劇とギンターの陰にいた。そして唯一の単独登場は、ベルリン行きのダジャレだった。彼はまだ、フライブルクという物語の中の一文として読まれている。
私はこれを悪い位置だとは思わない。クラブそのものが主役のチームで、途中出場を重ねている21歳だ。複数形の「サムライたち」から抜け出すには、もう少しゴールを揺らす回数が要るだけの話である。
あのダジャレを書いたファンは、ポカール決勝の舞台を指して「Goto Berlin」と書いた。本当にベルリンまで行ったら、同じジョークがもう一度、今度は彼のゴールの話として書き込まれると思う。そのコメントは、喜んで訳すつもり。
この記事で引用したコメントの出典記事(プレーの文脈はこちら)
この選手のまとめ
この記事をシェアする



