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真夜中コラム 第22夜 クリアすべきだったけど──海外ファンが語る田中碧の一場面

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真夜中コラム 第22夜 クリアすべきだったけど──海外ファンが語る田中碧の一場面

クリアすべきだったけど──海外ファンが語る田中碧の一場面

田中碧は海外ファンにどう見られているのか。当サイトで訳してきたコメントを並べ直すと、彼は「選手」としてより「場面」として語られていることが分かる。称賛も批判も、ひとつのプレーに貼りついている。

「リーズの田中」という呼び方

まず6月。W杯で日本が4ゴールを奪って快勝した試合のあと、こんなコメントがあった。

リーズ所属の田中のなんてパフォーマンスだ!!彼は2つのゴールの起点となり、BBCの視聴者から最優秀選手に選ばれたのも納得だ。

What a performance from Leeds’ Tanaka!! He sparked two of the goals and was rightly voted POTM by BBC viewers.

面白いのは“Leeds’ Tanaka”という呼び方だ。代表戦の話なのに、まず所属クラブで名指ししている。プレミアリーグを観ている人間にとって、田中碧はまず「リーズのあの中盤」なんだよな。日本代表の田中より先に。

それと“rightly”の一語。BBCの視聴者投票に「納得だ」と乗っかっている。自分だけの贔屓じゃなく、みんなもそう見たよな、という確認の仕方だ。「2つのゴールの起点」と具体的に書いているのもいい。どのプレーが効いたかを覚えている人の書き方だ。

日本のファンからすると、田中碧と「決定的な一場面」は相性がいい。カタールW杯のスペイン戦、三笘薫がゴールライン際から折り返したボールを押し込んだのが田中碧だった。あの「1ミリ」は今でも語り草だ。もともと彼は、一場面で名前を刻んできた選手なんだと思う。

「Yes」のあとに来るもの

ところが7月、森保監督の続投を問うスレッドで、田中碧の名前はまったく別の文脈に出てくる。

彼のネガティブな戦術がミスを招いた、と主張したいね。確かに田中碧はボールをクリアすべきだったけど、ブラジル戦の後半で見せた戦術は、俺がサムライブルーでこれまで見た中で最悪だった。

I would argue that his negative tactics invited the mistake. Yes Tanaka should have cleared the ball but the tactical display against Brazil in the 2nd half was worst I’ve ever seen the Samurai Blue employ.

このコメントの主語は田中碧じゃない。「彼」は森保監督で、田中碧のミスは“Yes Tanaka should have cleared the ball”と、譲歩の一文に押し込まれている。英語の議論でよく見る“Yes, but”の型だ。ミスは認める、でも本題はそこじゃない。この人にとって田中碧は、監督批判の途中で片付けておくべき反論材料でしかない。

で、それへの返しがこれ。

あの戦術がまずかったことには同意する。しかし、田中碧の個人ミス一つで延長戦を逃しただけなんだ。

I agree that it was a poor tactic. But they were one individual mistake from tanaka away from extra time.

戦術がまずかった点には同意しつつ、天秤を逆に傾けている。まずい戦術でも試合は持ちこたえていた、壊したのは個人のミスだ、という理屈だ。

私はこの二人なら、後者のほうが残酷で、後者のほうがサッカーの現実に近いと思う。試合の細部はコメントから読める以上のことは書かないけど、ノックアウトの試合はクリアしきれなかったボール一つで終わる。采配がどうであれ、最後に画面に映るのはボールに触れた選手のほうだ。“Yes”の一語で流してもらえるほど甘い舞台じゃない。

ただ、どちらも田中碧という選手そのものは評価していない。森保監督をどう裁くかという議論の中で、田中碧の一プレーが証拠物件として行ったり来たりしているだけだ。6月の「2点の起点」と、7月の「クリアすべきだった」。どちらも一場面の話だ。

「守田がいれば」の向こう側

同じ7月、守田英正のハル・シティ加入を伝えた記事には、こんなコメントがついた。

ワールドカップの日本代表に守田がいれば結果は違っていたはずだと言う人は多い。彼には試合中に相手の戦術変化に適応できる素晴らしいサッカーIQがある。

Many people say that if Morita had been in the Japan squad at the World Cup, the result would have been different. He has the soccer IQ to adapt to an opponent’s tactical changes during a match.

田中碧の名前は出てこない。でもこれは間接的に、W杯の日本代表の中盤への評価になっている。守田英正がいれば違った、という仮定は、実際にピッチにいた中盤が「試合中の戦術変化への適応」で物足りなかった、と見る人がいて初めて成り立つ。そしてその中盤に田中碧がいたことは、上の二つのコメントで見たとおりだ。

もっとも、私はこの手の仮定法をあまり信用していない。“Many people say”は英語版の「みんな言ってる」だし、ピッチにいない選手はミスをしないから、いつだって強い。

でも日本の森保監督は、守田がしっかりとした独自の戦術思想を持っているから代表から外したんだ。森保にとってはそれがやりづらかったんだろう。

But japan’s national coach Moriyasu banised from the team because Morita has his substantial thought. It was obstacle for Moriyas.

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ここまで来ると、ひとりのファンの見立てとして受け取っておくしかない。ただ、こういう物語が生まれるのは、「代表の中盤に何かが足りなかった」という感覚がコメント欄で共有されているからだ。田中碧は、その「足りなかった」側に立たされている。本人がそこで何を言われているか知ったら、たまったもんじゃないだろうけど。

アーセナル戦、コメント欄に名前がない

10月、リーズがアーセナルに1-2で敗れた試合。当サイトの記事タイトルには「田中碧の奮闘」とあるのだが、手元で訳したコメントを読み返すと、田中碧の名前は一度も出てこない。正直に書いておく。この回のコメントは、テーマには直接答えてくれない。

書き込みの主役はアーセナルファンで、彼らは自分たちの前線を嘆くのに忙しい。

最初の1時間は、あと3週間代表ウィークが続いてくれって祈りたくなった。失点してからは良かったけど、正直あの展開で生き残れてたのは運が良かったわ。

First hour of that had me praying for another 3 week international break. Good performance after we conceded but were lucky to still be in the game tbh

本当に酷かった。アーセナルは守備陣に助けられただけ……。補強なしでトロサールとマルティネッリの両方を手放しても平気だって言ってた奴ら、自分の発言を後悔してるといいんだが。

It was so diabolical, Arsenal just basically just getting bailed out by the defence …. Hope people who told me it was letting both trossard and martinelli go without replacing them all are regretting their words

勝ったのに「代表ウィークがあと3週間続いてくれ」。勝者のファンにここまで言わせたのだから、リーズは少なくとも1時間、相手を本気で不安にさせていたと読める。そこに田中碧がどう絡んでいたかは、このコメント群からは読み取れない。読み取れないことは書かない。

そして話は見事に脱線していく。

夏にヴィニシウスを無駄に追っかけるくらいなら、ドゥエに巨額オファー出して右ウイングで使った方が良かったのかもな。

Maybe a megabid for doue to play RW would’ve been better than the futile chase of vini in the summer

PSGがドゥエ売却なんて相手にしたと思うか? そもそも選択肢にすら入ってなかっただろ。

Would PSG have entertained selling Doue? I had no idea he was even an option.

売る可能性なんて絶対にゼロだったね。

Absolutely no shot they were going to sell him

夏の補強の後悔が、ドゥエ獲得の妄想になり、「絶対ゼロ」の一言で切り捨てられる。この三連は、ビッグクラブのファンの会話がどう転がるかの見本みたいで、ちょっと笑ってしまった。リーズの中盤の話は一行もない。

これがプレミアのコメント欄の現実だ。ビッグクラブと当たれば、話題は向こうの台所事情に持っていかれる。田中碧の今季はESPNのスタッツで5試合出場(先発4)、0得点1アシスト。他クラブのファンが名前を挙げて語りたくなる種類の数字には、まだなっていない。

三つの夜、三人の田中碧

並べてみると、海外ファンの田中碧評は、場面と場面のあいだが空白になっている。6月は「2点の起点」、7月は「クリアすべきだった」、10月は名前すら出ない。

私はこれを冷たいとは思わない。一場面で持ち上げられる選手は、一場面で落とされる。“one individual mistake from tanaka away from extra time”という書き方は、あのスペイン戦の「1ミリ」をそのまま裏返したようなものだ。カタールで一場面に救われた選手が、今度は一場面で責められた。帳尻は合っている。

気になるのは、その先だ。6月のファンは所属クラブで呼び、7月のファンは監督論争の材料にし、10月のファンは名前を呼ばなかった。三つの夜に、三人の別の田中碧がいる。「リーズの田中はこういう選手だ」と一言で言える海外ファンは、このコメント群の中にはまだいない。

次にコメント欄で名前が出るときも、たぶんまた一場面の話になる。それがリーズの試合で、ボールを押し込む側の場面であってくれ、とだけは思っている。

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