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シカゴのファンは村上宗隆をどう見ているのか。過去に訳したコメントを読み返すと、一番引っかかったのは称賛ではなかった。「他に誰も手を挙げなかった」というぼやきのほうだ。
褒めながら、素っ気ない
7月半ば、ホワイトソックスファンの一人がこう書いている。
ホワイトソックスがどうやって彼を勝ち取ったのか、未だに理解できない。文字通り他の誰もまともなオファーを出さなかったからだ。彼はチームに完璧にフィットしているし、ファンにも愛されているが、ここに落ち着いたのは他の選択肢が誰も現れなかったからに過ぎない。
I will never understand how the White Sox won him because literally nobody else put a serious offer in. He is a fantastic fit with the team and the city loves him, but he only ended up here because every other option didn’t show up.
「完璧にフィット」「愛されている」と言った直後に、「他の選択肢が誰も現れなかったからに過ぎない」と続く。一文の中に称賛と自虐が同居している。好きな相手のことを人前で話すとき、照れ隠しでわざと素っ気なくなる。あの感じに近い。
この文はただのぼやきでは終わらない。矛先は獲らなかった側にも向く。
俺たちは大学生やマイナーリーガー、その他のアメリカ人選手を、MLB以外の投手を相手にどうプレーしたかで評価している。なぜなら、マイナーで打ちまくる打者は、まだ100マイルの球を見たことがなくても大抵は対応できるからだ。あれは評価のプロセスが悪かったんだよ。
We also evaluate college players, milb guys and any other American talent by how they perform against non-mlb pitching. Because hitters who absolutely kill the ball can usually adjust even if he hadn’t seen 100 yet. It was a bad process.
この理屈はまっとうだと思う。大学生もマイナーリーガーもメジャー以外の投手を相手にした成績で評価しているのに、NPBで打った打者だけを割り引くのはおかしい、という指摘だ。村上宗隆は2022年にNPBで56本塁打を放ち、三冠王を獲った。その数字を「日本の投手が相手だから」で片づけた側に、このファンは怒っている。
ディポトとその一味は、彼はMLBの速球を打てないというスカウティングレポートを見て、『いや、絶対に打てる。だからマリナーズには合わない』という結論に至ったんだろうな。
Dipoto and his team probably looked into the scouting reports that said he wouldn’t be able to hit MLB fastballs and came to the conclusion that he absolutely could and thus would not be a good fit for the Mariners.
こちらは完全に皮肉だ。「打てるから要らない」というねじれた理屈をマリナーズ首脳陣に押しつけて笑っている。獲らなかった球団をいじるのは、自分たちが当たりを引いたという余裕の裏返しでもある。
速球は打てた。じゃあ何が打てなかったのか
シーズン前、村上宗隆について語られていたのはほとんど「速球が打てるか」だった。シーズン終盤には、あるファンがこう総括している。
メジャー1年目でwRC+が128、あれほどシーズン前に指摘されていた速球に対しても、難なくパワーを発揮していた。文句なしに素晴らしい1年目のシーズンだったよ。
128 wRC+ in his first season in MLB, and he’s had no problem generating power against the fast stuff despite that being all anyone wanted to talk about before the season started.That’s a successful first season full stop.
原文の「full stop」がいい。「以上、議論終わり」という言い切りだ。あれだけ騒いだ連中への「ほら見ろ」がにじんでいる。
圧倒的なパワーが宿った美しいスイングだ。ボールと衝突した瞬間でもバットが全く減速していない。このまま怪我なくいけば、月(Mune)まで飛んでいくぞ!🌙🌙🌙🌙🌙
Its a beautiful swing with so much power behind it, his bat doesnt even slow down on contact with the ball. If he stays healthy its to the Mune!🌙🌙🌙🌙🌙
MuneとMoon。名前で駄洒落を作られるのは、愛称をもらうのとほぼ同じ意味だ。8月には、ビデオボード直撃弾についてこんな書き込みもあった。
これは左打者としては前代未聞だ。左翼ボードが設置されてから10年以上にわたり、試合中に直接左翼Jumbotronに飛んでホームランを当てた左打者はいなかった、村上以前はね!
This is unprecedented for a left handed batter. In the decade-plus since the left-field board was installed, no left-handed hitter has hit a home run directly off the left-field Jumbotron on the fly in live game action prior to Murakami!
これはあくまでファンの調べだ。ただ、こういう「誰々以来」「史上初」を掘り出してくるファンがいる時点で、その選手はもう地元の持ち物になっている。
とはいえ、話はそこで終わらない。9月の書き込みが一番面白かった。
そうそう。最初はピッチャー陣が彼の弱点を球速だと思ってたから上手くいったんだよね。でも違ったことが分かって、今度は別の方法を試されて攻略法を見つけられちゃった。それが野球だし、ムネも対応しなきゃな。
Yep. He started off well because pitchers thought his weakness was velocity. Turns out, that wasn’t, so pitchers tried different things and found a strategy that works. Such is baseball, so Mune needs to adjust.
逆説になっている。速球が弱点だという前評判が外れていたからこそ序盤は打てた。外れだと分かった投手側が攻め方を変えてきた、という見立てだ。当サイトのデータでは、今季の村上宗隆はレギュラーシーズン553打席で打率.207、35本塁打、77打点、OPS.825。打率2割ちょっとで35本という極端な数字なので、見る人によって評価が割れるのは当然だ。
打率は低いのは分かってるけど、120試合で33本塁打70打点ってのは、ルーキーにしては超堅実だね。もし一度調子に乗れば、50本塁打120打点もいけるって確信してるよ。
I know his batting average is low, but 33 home runs and 70 rbis in 120 games is super solid for a rookie. I could definitely see this dude hitting 50 bombs and driving in 120 rbis if he gets hot one season.
一方で、「ルーキー」という物差しそのものに異を唱える声もあった。
“ルーキー”ではあるけど、プロ野球で10年近くのキャリアがあって、WBCにも2回出場して1回は優勝してるからな。適応は必要だけど、純粋なMLBのルーキーとはさすがに違うだろ。
He is a “rookie”, but he’s has almost 10 years of professional baseball experience AND two separate world baseball classic’s one of which he won.It’s an adjustment, but it’s not really the same as a pure MLB rookie.
私はこっち寄りだ。2023年のWBC準決勝、メキシコ戦のサヨナラ二塁打を観た人間からすると、新人扱いで甘く見るのは本人にも失礼な気がする。ただ、その反論も筋が通っていた。
ほとんどの選手は、いきなりメジャーの厳しい監視下に放り込まれるわけじゃないからな。シカゴや全国メディアの容赦ない追及にさらされるより、ウィンストン・セーラムやバーミンガムみたいな場所で慣れていく方が、多少は適応しやすいと思うよ。
Most aren’t immediately thrown into the big leagues under the big league microscope. I imagine it’s a bit easier to adjust to it all in Winston Salem or Birmingham than under the scrutiny of the Chicago and national media.
ウィンストン・セーラムやバーミンガムといった、ホワイトソックス傘下のマイナーがある街の名前がすっと出てくる。地元の事情に詳しい人の書き込みだ。経験はあっても、ステップを飛ばしていきなり本番に放り込まれた。どちらの言い分も正しい。
誰にも期待されなかった者同士
ここからが私の読みだ。シカゴのファンが村上宗隆を語るとき、そこにはいつも自分たちのチームの話が重なっている。
だってチームはボロボロだったし、このプレーオフ進出自体が奇跡なんだから。みんな、あいつはトレードされるか、価値を上げて他チームと契約するためにここにいるだけだと思っていた。トレードされなかったけど、後者が現実になるかはこれからだね。
I mean the team was terrible and this playoff run is a surprise for a reasonWe all thought that he was only here to be traded or establish his value and sign elsewhereHe wasn’t traded. Remains to be seen if the other part is true
ボロボロのチームと、他に行き場がなくて来た打者。最初は「どうせ通過点だろう」と見られていた。ホワイトソックスは2024年に121敗し、近代メジャーのワースト記録を作ったチームだ。そこに来た選手に、ファンが最初から長居を期待しなかったのも無理はない。
3年連続で100敗したチームが、ポストシーズンに入ってから無敗の4連勝を飾るなんて信じられない。このシンデレラストーリーがどこまでも続いてほしいな。行け行け、ホワイトソックス!
A team that has lost 100 games for three consecutive years has gone on a four-game winning streak without a postseason defeat, and I hope that Cinderella runs will continue endlessly.Go Go White Sox
俺たちは長い間、特にこのロイヤルズを相手に本当に苦しんできた。でも今のこの見事な復活劇。まだ何も勝ち取ったわけじゃないけど、涙が出てくるよ。だからここからが本番だ、みんな!
We suffered so hard for so long especially at the hands of these Royals too. But the turnaround now. It brings tears to my eyes even if they haven’t won anything yet. So don’t stop now boys!
「まだ何も勝ち取ったわけじゃないけど、涙が出てくる」。負け続けたチームのファンにしか書けない一文だ。冒頭の「他の選択肢が誰も現れなかった」も、この文脈で読み直すと響きが変わる。誰も期待しなかったチームに、誰も本気で獲りに来なかった打者が来て、一緒に勝っている。似た者同士なのだ。
だから引き留めたい気持ちも、照れ隠しなしで出てくる。8月にはこんな書き込みがあった。
このチームはまだ若いから、自分たちがどれだけすごくなるか、分かってないくらいだよ。勝っても負けても見ていて本当に楽しいね。ムニを早急に長期契約で確保してくれ、球団幹部さん頼むよ。
This team is so young, it doesn’t even know how good it can and will be. They are so much fun to watch win or lose. Please sign Show me the Muni to a long-term deal ASAP. Sox brass
日本語訳では「ムニ」になっているが、原文は「Show me the Muni」。映画『ザ・エージェント』の名台詞「Show me the money!」のもじりだ。契約の話をするのに、わざわざ金をよこせという台詞を下敷きにしている。年俸を払うのは球団なのに、ファンのほうが「早く金を積め」と言っているわけで、ここは笑うところだと思う。
浮かれるだけでなく、ちゃんと先の心配をしている人もいた。ピザの写真が話題になった回のコメントだ。
そうそう。選手同士が本気で嫌い合ってない限り、最初の数年間は最高なんだよ。後々問題になるのは高すぎる周囲の期待なんだ。
Yeah unless like some of the guys that come up through the system or get brought in actually don't like each other the first few years together usually are awesome. It's those damn expectations that end up being the issue down the road.
これは長く応援してきた人の言葉だ。期待されないうちが一番楽しい。それを知っているから、今の楽しさを疑いながら味わっている。
トウモロコシ畑に打ち込んでほしい
最後に、私が一番好きだった書き込みを紹介する。
MLBさん、ホワイトソックスの次の『フィールド・オブ・ドリームス』の試合はいつですか?トウモロコシ畑から村上と若きスーパースターたちが現れて、そこに何発もホームランを叩き込む姿がどうしても見たいんだ!!!
When will the next Field of Dreams match for CWS, MLB? We definitely want to see Murakami and his fellow young superstars emerging from the cornfield and launching multiple bombs into it!!!
2021年、アイオワのトウモロコシ畑の中に作られた球場でホワイトソックスとヤンキースが戦い、最後はティム・アンダーソンのサヨナラ弾が畑に消えた。あの試合はホワイトソックスファンにとって数少ない明るい思い出だ。その舞台をもう一度、今度は村上宗隆で、と言っている。過去の名場面に今の選手を重ねたがるのは、その選手をもう球団の歴史の一部として見ている証拠だ。
フランク・トーマスの名前を出して、今の選手を球団史上最高のように持ち上げるなと釘を刺すファンもいた。それくらい、このファンたちは自分たちの歴史にうるさい。そのうるさい人たちが、村上宗隆をトウモロコシ畑に立たせたがっている。
7月の「他の選択肢が誰も現れなかったからに過ぎない」という文にも、よく読むと「the city loves him」と書いてあった。街の愛情は最初からそこにあったわけだ。あとは先ほどのファンが書いた「後者が現実になるかはこれからだね」、つまり村上宗隆が他球団へ移るかどうかが残っている。そこだけは、シカゴのファンが何を書き込んでも決められない。
この記事で引用したコメントの出典記事(プレーの文脈はこちら)
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